安心できる環境を創造することで
社会に貢献することを願っています
2025年 年頭所感
新しい年を迎えられたことにお慶びを申し上げます。今年は乙巳の年です。「乙(イツ)」は十干の2番目であり、誕生間がなく、かがまっている状態を表し、「巳(シ)」は、十二支の6番目で、草木の成長が極限に達した状態を表すそうです。陰陽五行思想では、「乙(きのと)」と「巳(み)」は、「木生火(もくしょうか)」という組み合わせで、木は燃えて火を生むという関係性である。すなわち成長が極限に達し、内包するエネルギーの行き先が閉ざされたことにより、爆発するような大きな変化を引き起こす状態を表わすそうです。今年は、何か、大きな変化、変革が起こる年であると解釈できます。
既に、我が国の自動車産業は100年に1度の変革期にあると言われています。これは、脱皮のような自己変革ではなく、世界規模の大きなうねりに、日本の自動車業界、そして、日本全体が、飲み込まれつつあることの現れではないでしょうか。この波は、18世紀後半から始まった産業革命に匹敵する、あるいは、これ以上のものであると感じています。産業革命は、燃焼を制御し、エネルギーを得る発明を契機としていましたが、今度の革命は電磁波を制御し、エネルギーを得るだけでなく、情報を伝達し蓄積、加工することに関する発明が原動力になっています。この革命は、私たちの生活に必要なものを、劇的に小型に、軽量で、早く、単純に、局所的に提供する技術を数多く生み出しました。最近まで大段取りで行っていたことを、あるいは、できなかったことを、身近な、手に持てるものにより、さっと、実現する技術です。いわば、技術の進化型です。使う側から見れば誠に単純ですが、人類が積み重ねた自然法則に関する深い知識と、多くの発見と、様々な経験の蓄積に裏打ちされています。
高弾性材料補強(SRF)と微動診断(MTD)は、前世紀末に登場し、四半世紀に渡る実証を経ています。これらを活かす統合防災技術として、昨年、収震設計(SRD)が登場しました。これは、重油を燃焼させて動力を得る大型機械を使い、鉄やコンクリートを大量に投入したり、工場で製造された高価な機械を据え付けたりする技術ではなく、手に持てる材料と計測器で、その場で、構造物の地震に対する安全性を、物の基本的な性質である弾性と慣性を利用して、評価し向上させる技術です。小型、軽量、単純、高速、局所性など、進化型技術の特徴を持っています。
地震に対して安全であるということは、簡単ではありません。日本のどこかに、近い内に、大地震が起こることは、経験的に分かります。しかし、いつ、どこで、どのような地震が発生するかを、これに基づいて避難などの判断基準とできるような高い精度で予測することは、現時点では不可能です。地震は、遥か過去から遠い将来に渡る巨大な時空間的なスケールの中で生ずる巨大なエネルギーを放出する破壊現象という人間の計測・解析能力を超えた事象です。計測や計算に基づいて、その発生を高い精度で予測することは、地震の発生を制御することと同様に、人間が造る科学技術の限界を超える種類の問題であり、今後も不可能であると考えています。地震の発生と様相が極めて不確定ですので、地震が、引き起こす地震動、そして、これが引き起こす個々の構造物の揺れも、正確な予測や制御が困難な対象になります。
今から、丁度、30年前の1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災までは、日本の耐震工学は地震を克服した、大地震の予測も、建物やインフラ施設という構造物の揺れの制御も正確に行うことができると信じられていましたが、新幹線やビルが倒壊した映像が大きく報じられ、この神話は打ち砕かれました。それから、30年の年月を経て、また、新耐震基準を守っていれば、安全である、震度7の大地震でも、避難する必要はなく、マンションやビルに留まっていられる、被害を生ずるのは旧基準の建物であると信じられるようになっています。東日本大震災、熊本地震、能登半島地震などで、新耐震や耐震補強済みの構造物が、使えなくなって取り壊されたこと、生活や仕事の場を取り戻すまでに長期間と多大な労苦を要したことは、大きくは報じられなくなっています。
洪水や津波と同様に、いや、地震に対してこそ、被害を最小限に留める対策を事前に行い、被災後の復旧体制を整えておくことが必要です。この為には、インフラ施設や建築物などの構造物に関わる多くの人々が、建設前の計画から、設計・施工、維持管理、被災後の復旧、取り壊し建て替えまで、共通の理念と一貫した方針に基づいて協力して対処することが不可欠です。これを実現する手段と場を提供する技術が収震設計です。地震の不確定性を認識し、構造物の機能維持能力と危険性を、自然法則に即して評価することが基本です。
産業革命前夜の18世紀の地球でも、現在のように、地震、津波、異常気象が猛威を振るっていました。1755年11月1日のリスボン大震災は、地震と津波で、リスボンを壊滅させました。ミサが行われていた教会が倒壊し、多数の信者が死傷しました。国王は、恐怖から、死ぬまで閉所恐怖症に苛まれ、木造幕舎住まいを続けたとのことです。この震災を契機に、カトリックと王政の絶対権威が失墜し、科学技術が開花し、自然法則が明らかにされ、多くの発明、発見が生まれ、市民革命の扉が拓かれています。後に、対象が認識を形成するのではなく、認識構造が対象を規定するという認識論におけるコペルニクス的転回を行ったカントは、地震前後、ヨーロッパ全域に渡り、異常気象(暖冬)が発生していて、これが、余りに並はずれなので、その為にあのような大地震が起こったといっても許されるだろうと、震災の翌年に発表した地震論の中で述べています。
今世紀の地震動は前世紀に作られた新耐震の想定を大幅に上回る強さです。大都市を襲えば、リスボン大震災のように、即座に現在の社会基盤を破壊し、社会を根底から覆す大きな力をもっています。収震設計は、このような地球環境において、日本の、そして世界の、都市と国民を守る為に生まれたものであると感じています。皆様に収震設計を理解していただき、次の震災を待たずに、都市と国の姿を、将来の厳しさを増す地球環境に即した、新しい形に自己変革すること、進化させることに向けて、協力していただけるよう努力します。
本年も、宜しくお願いします。

-
収震設計
現実に即した21世紀の設計です
地盤の揺れと、これに応じて起こる構造物の揺れを震動と言います。震動は、自然現象ですので、慣性の法則などの運動の3法則、弾性を表わす構成則、そして、重力を生ずる万有引力の法則の5つの自然法則に支配されています。ある程度までは、構造物は、足元の地盤の震動を自身の震動の中に収めて元に戻る性質を持っています。これは、慣性、弾性と重力による性質で、収震性と呼びます。地震による構造物の損傷は、元に戻らなくなること、つまり、震動が収震性の限界を超えることであると解釈できます。収震性は、機能維持に直接関わる性質です。これを評価し、高めることを、構造物の計画から設計・施工、被災、取り壊し建て替えまで、一貫して行うことが収震設計です。事前に、基礎を工夫して過大な震動を避け、高弾性材料補強で機能維持能力を高め、倒壊等の危険な事象にも対処し、万一被災した場合の復旧工事体制を整えておくという4段構えの方法です。
-
高弾性材料補強(SRF工法)
しなやかな高弾性材料で収震性を高め危険性を低減します
耐震補強に使われている鉄や炭素繊維などの固い材料は、地震で激しく動くとコンクリートや木材を破壊するか剥がれてしまいます。SRF工法は、ポリエステル繊維をベルト状、シート状に織った扁平でしなやかな高弾性材料と一無溶剤液性ウレタンの高弾性接着剤で補強する方法です。木材やコンクリートを壊さずにひび割れや亀裂に大きな復元力を与えます。主要な柱等の部材を補強することで、個々の部材の性能のばらつきを補い、いびつな変形を抑え、均整のとれた変形形状とする整震効果があります。また、復元できる変形を大きくして、収震性を高めることができます。さらに、しなやかさを生かして、層崩壊や崩落、落下・転倒を防止するフェイルセーフ機構を造ることもできます。SRF工法は、各種の部材と接合部の弾性変形限界を高めることに加え、破壊後にも荷重支持能力を維持する危険性低減効果も兼ねる一石二鳥の補強工法です。
-
微動診断
実測により診断し実現可能な補強を提案します
収震性は構造物と地盤の変形の中にある性質ですので、構造物の常時の変形を計測し解析することで数値化することができます。ただし、変形は、耐震設計で使われるように何分の1などという一つの数字で表されるものではありません。時空間的な大きさと形を持つものですので、6自由度の計測と解析を行います。建物の各フロアに微動計を置き、常時微動を測定し、各種の指標を直接計算します。耐震設計に用いられている指標や係数に相当する値も算出することができます。建物に関する図面、既往の診断結果等の資料の分析結果と比較し、構造的な性能と品質を評価し、大地震に対する使用継続性と安全性を確保する収震補強計画案を提示します。測定は1日、分析と報告書の作成は1週間~1ヶ月程度です。
-
SRF研究会
SRFで無被害化とフェイルセーフを目指します
21世紀の厳しさを増す地球環境に対して、安全で快適な街と国を造ることに向け、構造品質保証研究所(SQA)が所有する高弾性材料による収震補強(SRF工法)に関する各種の知的財産権、ノウハウを、SRF研究会を通じて、設計、施工される企業に提供しております。本会は、設計部会、施工部会、材料製造会社から構成されています。入会は随時受け付けております。設計法、施工法に関する講習会を開催しています。会員専用ページから、各種指針、技術資料、講習会映像等を閲覧、ダウンロードできます。なお、微動診断、収震設計等、新しい設計法、診断法に関する研究の最新情報、設計指針、設計資料等をご提供し、お問い合わせにお答えしています。耐震基準をクリアする補強から、収震補強までサポートしております。
収震:地震の揺れを自然な変形によって収める
地震が起こると、地面はその位置と向きを大きく変えます。従って、地面の上に建っている建物、インフラ施設など(構造物)は、揺れを小さくするためには、図に青い線で示したように大きく変形する必要があります。しかし、従来は、揺れや被害は構造物の変形によって生ずると信じられていました。そこで、柱を太くし、耐震壁を入れたり、免震・制震装置を用いて変形を小さくするような耐震基準が作られました。ところが、図に赤い線で示すように、地震を受けたときにほとんど変形できないと、地面と同じように大きく激しく揺れてしまい、中にいる人や設備の損傷は避けられません。さらに、地面と一緒に動こうとするので、大きな力(地震力)を受けて弱いところから壊れてしまいます。東日本大震災、熊本地震などで、写真のように耐震基準を満たした建物や耐震補強済みの建物の内部が惨憺たる状況になり、あちこちに大きな亀裂が入ったことが多数報告されています。壁や装置で変形を抑えようとすると、大地震では大きな揺れと力を生じてしまい、被害が生ずることは、図のように空から地面と構造物の両方を見れば一目瞭然ですが、従来は、動く地面の上から構造物を見て設計していたので気付かなかったようです。

物には、力が加わっても元の位置に留まろうとする慣性と呼ばれる性質があります。また、自然な形に変形して、力が抜ければ元の形に戻る弾性という性質もあります。これらによって地面も構造物も元の位置の周りで、常に振動しています。地震によって、地面がもとの位置から大きく激しく動いても、図の太い線で示したように構造物が自然な振動を続けられれば、それほど揺れずにすみます。これは、しなやかな材料でコンクリートの柱や壁、木造の接合部を補強すること(SRF工法)で実現できることが、理論・実験と実測で確認され、近年の地震で実証されています。地面から来た地震のエネルギーは構造物を壊すような力に変わることはなく、反射して地面に返っていきます。地震が終われば、揺れは自然に収まります。これを収震と呼んでいます。変形を抑えようとする耐震、免震・制震とは違い、自然な変形で揺れを収める新しい方法です。さらに、SRF工法は万一地面が想定を超えるような動きをした場合でも柱が床を支持し続けて倒壊の危険性を減らすフェイルセーフ効果もあることが実験で確認され地震で実証されています。