2022年お知らせ一覧

2023年02月

2023年01月

2023年 年頭所感

新しい年を迎えられたことにお慶びを申し上げます。今年は癸卯(き・ぼう)の年です。「癸(みずのと)」は十干の最後であり、次の生命を育む準備ができた状態を、「卯」は、十二支の4番目で、草木が地面を覆うようになった状態を表すそうです。既に、春の兆しが始まり、これまで培った実力が試される新たな局面に向かうと解釈できます。

本年は、関東大震災から100年目、東京大空襲から約80年にあたります。現在の東京や大阪には当時とは比較にならない程の密度と高さの構造物が林立しています。東京に大地震が起これば、群衆雪崩、未治療死、火災旋風、化学工場の爆発、地震洪水、水の備蓄不足、そして、円・日本株の暴落、経済崩壊につながるとNHKで報じられていました。ミサイルによる空爆、あるいは大規模テロ攻撃でも同様でしょう。

耐震工学と耐震基準は、これまで地上に存在しなかった高さ、規模、そして内容物を持つ構造物を大量に生み出し、わが国を始めとする世界中の地震危険地帯の都市を埋め尽くして、戦後の経済発展の原動力となりました。教科書や解説書には、地震が発生すると物には慣性力という外力が作用すると書かれています。超高層ビル、原子力発電所、新幹線高架橋から木造住宅まで、慣性力を使った詳細な計算によって設計されています。

地震の作用を想定地震動から計算した慣性力で表して設計する方法は、関東大震災の7年前の1916年に佐野利器によって提唱された方法ですが、木造住宅や中低層の鉄筋コンクリートビルを対象に、構造物が剛であり、弾性的に応答するということを前提にしていました。ところが、戦後、慣性力を用いて、様々な形や規模の構造物の応答を計算し、弾性領域を大きく超えた範囲まで適用するようになります。地震が発生すると慣性力が作用するということは、物理の法則のように語られ、信じられています。しかし、慣性力は、実在する力ではなく、動くところから見ると、止まっているものでも動いて見えるという現象を数式で表したときに生ずる項に過ぎません。英語は、fictitious force(架空の力)です。

当然、架空の力を用いた見かけ上の計算結果は、現実とは大きく乖離することになります。実際に、阪神淡路大震災では、設計の想定を数倍超えた地震動に遭遇したと考えられる三宮周辺でも、倒壊した建物は数%でした。一方で、新幹線高架橋は、激しく倒壊し、その後、想定地震動を変更した計算に従って鉄板で補強しても、今世紀に入り、被災を繰り返しています。震災後に三木市に建造された超大型震動台による実大実験では予測に反する結果が次々に得られています。しかし、設計計算や予測計算と現実の乖離を問題視する声は聞かれません。国の調査委員会は、大震災の度毎に、耐震基準は妥当である。旧基準構造物の耐震化を急ぐべきであるとの発表を繰り返しています。

耐震補強をしていない旧基準建物や、設計計算をしていない伝統木造で、激震地で無被害のものが多くあります。そもそも、新耐震基準は、大地震では構造物が使えなくなっても命が助かればよいという基準ですが、これでは、生活や事業ができなくなります。架空の力で設計された構造物に埋め尽くされた大都市が、実際の震災や空襲で、どのようになるかは予測できませんが、使用できない建物や施設が林立することはほぼ確実です。

私たちは、この問題を前にして、20年余りに渡って、大地震は、実際には構造物にどのような作用を及ぼすのか、安全性と使用性を維持するのどのような構造か、どのように設計したらよいか、どのような材料で作り補強したらよいか、どのように性能を調べられるかを追求した結果を、収震(Seismic restoration)と題して昨年12月に出版しました。

大地震に対する構造物の応答は大まかにしか計算や予測ができないという認識に立ち、破壊したときのフェイルセーフ機構(Fail-safe mechanism)を重視する方法です。構造物が大地震でも、重力を支え、元の形と空間を保ち、内部の人や設備を傷つけないように、高弾性材料で復元性を高めることが基本になります。設計計算は倒壊危険度(If値:Index of failure)を主な指標とする簡単なもので、工事は安価、迅速です。私達は、収震を用いれば、世界で最も厳しい条件の中でも、東京、大阪などの大都市、そして我が国を、安全で快適な街と国にできると信じています。本年は、皆様に収震をご理解いただき、お使いいただけるように一層努めます。本年も、宜しくお願いします。